剣道には「前技」「引き技」があります。
前に出ながら打つ技を「前技」と言い、下がりながら打つ技を「引き技」と言います。
引き技には大きく分けて以下の3種類あります。
- 引き面
- 引き小手
- 引き胴
今回3種類の中の「引き小手」について解説していきます。
引き技を打つ時には基本的に、鍔迫り合いをしてから打突します。
鍔迫り合いは、試合の半分か半分以上の時間を使うので、引き技は練習しておきましょう。
自分が引き小手を打った覚えのある試合は載せておきます。
Contents
引き技・引き小手の注意点やコツ
引き小手が試合で決まるのを見る機会は少ないですが、チャンスがあれば引き小手狙う事で相手にプレッシャーを与える事ができます。
しかし、その時いくつか大事な注意点があります。
- 打つ瞬間に隙ができやすい
- 打った後“後打ち”を打たれやすい
- 決まりにくい(1本になりにくい)
引き面と違って、自分の竹刀を相手の竹刀より下げることになるので、相手から見ると目の前に隙だらけの頭部(面)が見えてしまいす。
基本的に「前技」であれば竹刀を下げるだけで打たれにくいですが、「引き技」は相手の目の前で竹刀を下げる事になるので、十分に注意しましょう。
また打った後も、相手との間合いを早く切らなければ、追いかけられて“後うち”を打たれてしまいます。
相手が体を寄せたり、ついて来ないタイミングを作りましょう。
さらに「前技」の小手打ちや、出鼻小手に比べると1本にする事が難しい技でもあります。
- 相手を瞬間的に止める(タイミングを考える)
- 踏み込みを強く
- 小手の打突音を審判に聞こえるように打つ
- 下がるスピードを速くする
上記の事を意識して練習してみてください。
引き技は、下がりながら打つ事は基本にはありません。
従って、引き小手も同様に下がりながら打たない様に気をつけましょう。
下がらずに打つポイントは2つあります。
- :間合いを作る事
- :手(腕)の曲げ方(縮め方)
ポイントの1つ目は、相手との距離を離す事で間合いを作ることです。
しかし、相手との距離を開けると、相手も引き技を打ちやすい間合いになるので、間合いを作ったことが、相手にバレないようにしましょう。
注意点にも記載しましたが、打つ瞬間には隙ができるので「足を使う」「打ち気を消す」など工夫をしましょう。
ポイントの2つ目は、手の縮め方です。
「前技」と違って、手を伸ばして打つ事は無いので、腕を縮めて(曲げて)打つ練習をしましょう。
引き小手の打ち方・引き小手の種類【初級編】
引き小手の打ち方の種類について説明していきます。
意識練習をする「大きく引き小手」や基本的な打ち方について説明してきます。
意識練習とは
技を繰り出すまでの細かい動作を、瞬間瞬間の基本的な動きを意識的に確認しながら行う練習です。
大きな動きの技で意識練習をすることで、速い動きや複雑な動きになっても、正確な技が出せるようになります。
剣道以外で例えるなら【ラダートレーニング】です。
出来るだけ速く・細かく足を動かす“ラダートレーニング”では、頭「脳」で考えて体に伝達します。
しかし、いきなり速く足を動かそうとしても成功しません。
大きく ・ゆっくりイメージをしながら取り組むことで体に動きを覚えさせる事ができます。
これを引き小手にも応用してみてください。
1.大きく引き小手
大きく引き小手は試合では使う事はありませんが、意識練習として取り組んでみてください。
ポイントとなる「間合いを作る事」「手(腕)の曲げ方(縮め方)」を意識して取り組んでみてください。
前技の様に「大きく打つ」と詰まって竹刀の根元に当たってしまいます。
打てる間合いができたら、腕を曲げてから打ちましょう。
この時に当たらないからと言って、下がりながら打たないように気をつけてください。
手順を簡単に説明します。
- :間合いを作る
- :大きく振りかぶる(この時に作った間合い以上に下がらない)
- :その場で打つ(腕を縮めて)
- :手の内を意識する(小手の音が鳴る様に)
- :踏み込みを意識する(出来るだけ強い踏み込み)
- :下がるスピードを意識する(出来るだけ相手から目を逸らさない)
- :残心(相手からの“後うち”に注意)
上記の事を意識しながら取り組んでください。
大きく引き小手が出来なければ、小さく引き小手は打つ事が出来ません。
始めはゆっくりで良いので、意識練習として取り組んでみてください。
この試合の7分から井手選手が引き小手を打ちます。
これくらい迫力があると1本になります。
相手に下がらせて、自分は下がらない事で間合いを作っています。
出典:Youtube H24新潟インターハイ剣道 個人準決勝2 井手(福岡一)対村上(桐蔭)
2.小さく引き小手
小さく引き小手は、鍔迫り合いから竹刀を振りかぶらずに打ちます。
イメージは鍔迫り合いの竹刀が立っている状態から、竹刀をそのまま下に振り下ろす感じです。
強く打とうとすると力が入り、振りかぶってしまうので注意してください。
大きく引き小手と同様、間合いを作ったら後ろに下がらずに、その場で小手を打ちます。
この時、左手を自分の左腰に引くと打ちやすいです。
打突時に竹刀が外側に流れて見えるので、「手の内」「踏み込み」「重心を落とす」事を意識して、引き小手に「キレ」を出しましょう。
この試合の20秒辺りから真田選手が引き小手を決めます。
相手が下がっていますが、このくらいコンパクトに打ちましょう。
出典:Youtube 【 – 一本集 – 最高の引小手 – 】見事な一本 – high level – kendo – ippon
引き小手の打ち方・引き小手の種類【応用編】
【応用編】では、試合で使える実践的な技を紹介していきます。
- 面フェイント引き小手
- 押して引き小手
- 崩して引き小手
- 左拳で払って引き小手
- 押さえて引き小手
- 中間の間を作り出して引き小手
- 別れ際の引き小手
- 相手が打ってきた後の引き小手
上記の8種類の引き小手を紹介しますが、技の組み合わせは様々なので自分自身で考えて発展させていきましょう。
3.面フェイント引き小手
鍔迫り合いの状態から相手の面を触って(軽く打突)してから引き小手を打ちます。
【表からの引き面】を十分に意識させると、相手が引き面を警戒して手元が上がり、引き小手が打ちやすくなります。
引き面の打ち方は以下の記事を参考にしてみてください。
体を右に動かしながら相手の面を触る方法や、触らずに体や竹刀だけ「表からの引き面」の動きでフェイントする方法など、フェイントのかけ方は人それぞれです。
自分に合ったフェイントと、それか引き面に見えるかを練習の中で話し合いながら取り組みましょう。
以下の試合の4分35秒の部分を参考にしてみてください。
完璧な面のフェイントで、引き小手を決めています。
出典:Youtube ★2014玉竜旗 一本集 Gyokuryuki High school KENDO
4.押して引き小手
押して引き小手では、相手を押す事で手元を上げさせ、小手を打って下がります。
ただ押すだけでは手元は上がりません。
押して引き面を打つ事で、相手は引き面を警戒して手元を上げます。
押して引き面については以下の記事を参考にしてみてください。
「押す時のポイント」や「打ち方」について詳しく紹介しています。
押して引き面では、竹刀を振って打突すると相手にバレて避けられてしまうので、振りかぶらずに面を打ちます。
しかし、引き小手の場合は振りかぶる事で、相手の虚をついて(手元を上げさせて)打つ技です。
5.崩して引き小手
崩して引き小手は、相手の首を左斜め下に押すと、体勢が戻ると同時に手元が上がりますが、上がったことを確認して打つと遅れてしまうので、体勢が戻る瞬間を予測して打突します。
崩して引き面に対応してくる選手に有効です。
「体幹が強い選手」や「重心を落として耐える選手」には効果的ではない、崩して引き面に対して、打突のタイミングを変える事で引き小手を上手く打つことができます。
竹刀の剣先で崩してしまうと、相手に力が伝わりません。
出来るだけ竹刀の根元から、拳あたりで崩します。
完全に相手の体勢を崩すより、瞬間的に崩して相手を驚かせて、手元を上げさせて引き小手を打ちます。
崩しが弱すぎると、崩しを利用されて打たれる可能性もあるので注意してください。
崩して引き面について以下に記載しています。
参考動画もあるので確認してみてください。
6.左拳で払って引き小手
鍔迫り合いの状態から、「自分の左拳」で「相手の右拳」を払うことで、手元に隙を作ります。
払う方向は、ボクシングの左から右に殴る(左フック)のように払います。
払う時に起こりが見えてしまうと、相手は驚いて力を入れてしまうので、上手く手元に隙を作れません。
動作が大きくならないように注意して、打ち気を消して払いましょう。
払った瞬間は右手が自分の体に近く、左手は前に出ています。(相手の体の近く)
左手(左拳)を自分の体の方に引っ張るようにすると自然と竹刀が回って、振り下ろす事が可能になります。
この時、一番難しいのが間合いです。
間合いを取りすぎると、払う時(左フック)を外して「不格好」「隙」に変わります。
間合いが近すぎると、詰まってしまって(竹刀の根元で打突して)1本になりません。
- 払いを外さない間合い
- 相手の拳を強く払える間合い
- 小手を打突部位で捉える事ができる間合い
上記3点を意識して練習してみてください。
7.押さえて引き小手
押さえて引き小手は、相手の竹刀を表側(自分の右側)から左方向に押さえて、相手の竹刀が戻ってくる反動を利用して隙を作ります。
鍔迫り合いの状態から押さえると、警戒した相手から、体を寄せられたり、避けられてしまいます。
「別れ際」「気を抜く瞬間」を作り出して竹刀を押さえてみましょう。
8.中間の間を作り出して引き小手
中間の間、中間間(ちゅうかんま)を作り出して引き小手を狙います。
- 前技から繋げて中間間を作る方法
- 引き技から繋げて中間間を作る方法
の2種類があります。
「前技」を打とうとして、相手が足を止めて避けていたら、狙う事ができます。
中間間の引き小手を打つ前提で間合いに入って狙う事も可能ですが、相手に「前技」を打つ気持ちがない事を覚られないように注意しましょう。
この動画の1分50秒頃に中間間からの引き小手を打っています。
二つ目の引き技から繋げて中間間を作る方法の説明をします。
引き技を打ったが、1本には不十分だと感じて中間間になる事がありますが、そこを狙ってみましょう。
参考動画を載せておきますので、是非見てください。
9.別れ際の引き小手
別れ際の引き小手は2種類の方法があります。
- :表から別れる場合
- :裏から別れる場合
表から別れる場合、別れる瞬間に前述の「押さえて引き小手」を打つ事ができます。
押さえて引き面を打ったり、フェイントをする事で手元に隙を作り出します。
裏から別れる場合、「裏から表に抜いて引き面」を習得しておくと有効です。
「裏から表に抜いて引き面」は以下の記事に記載しているので練習してください。
「裏から表に抜いて引き面」を相手に警戒させる事で、相手は手元を上げるので小手を打つ事ができます。
この動画の5分の所で鈴木選手が1本にしています。
出典:Youtube【男子団体決勝】【H28第63回全国高等学校剣道大会】九州学院×麗澤瑞浪【先鋒・次鋒・中堅】
10.相手が打ってきた後の引き小手
相手が打ってきた後の引き小手は、自分が攻めている時に相手が無理に技を出して、体勢が不十分の時に隙ができて打つことができます。
中途半端に技を出してくる選手に有効な技になります。
間合いを作りすぎると相手は警戒して避けられてしまうので、ギリギリの所で捌き、相手が気を抜いた瞬間打つ事ができます。
相手が動いている瞬間を狙うので難しい技ですが、練習してみてください。
「出てよし、引いてよし」と褒められるように頑張りましょう。
引き技・引き小手の打ち方 まとめ
今回は3種類の引き技の中で、引き小手について解説しました。
紹介した技も試合で使うとなると「1本を取られるリスク」があります。
1本にする技術も高くないとなかなか試合では打ち辛いですが、練習すれば確実に打てるようになります。
自信を持って試合で出せるようになるまで、練習してみてください。
引き技のバリエーションを増やすと、相手は嫌なので1つでも多くこの記事から吸収してくれると嬉しいです。